デジタル化で飼育記録業務を改革
「記入待ち」や「紙運用のムダ」から現場を解放
蓄積データの有効活用にも取り組む

株式会社鳥羽水族館は、サッカーコート3面分に相当する延床面積2万5,281平行メートルの大規模施設に国内最多の約1,200種の動物を飼育しています。同館では長きにわたり、動物たちの飼育記録を紙のノートでとってきました。ただ、その効率性や記録の保存性・再利用性に問題があり、パナソニック デジタルによる伴走支援のもと、飼育業務のデジタルトランスフォーメーション(DX)に乗り出しました。同プロジェクトを主導した鳥羽水族館 飼育研究部 主任の大村 智氏に話を聞きます。
導入のポイント
手書き飼育ノートの非効率性を解消。飼育記録を「どこでも」「すぐに」「簡単に」
パナソニック デジタルの伴走支援でデジタル化を推進。業務を知り要望を形にするパートナーを選択
飼育記録の分析・可視化で業務品質のさらなる向上へ。困難だった飼育記録の有効活用を可能に
課題
  • 飼育ノートへの「記入待ち」が常態化。常に起きる記入渋滞

  • データが活用されないまま紙が劣化。紙は残るが記録が読めない

  • 印刷とファイリングが毎日の負担に。アナログ作業の負担と限界

解決
  • 紙のノートからタブレットへの転換。どこでも即時記録を実現

  • 写真添付で傷や状態を正確に申し送り。記録の精度向上と一元化

  • 印刷・ファイリング作業を一掃。毎朝の非コア業務からの解放

海獣だけで30個体以上。紙の飼育ノートが現場を止めていた

――まず、大村さんの現在のお仕事について確認させてください。

大村氏 私は、当館のショーチームに10年以上在籍し、アシカ・セイウチ・ペンギンなどの飼育とショーを担当しています。飼育担当の業務は幅広く、餌やりや健康管理のほか、餌の仕入れ、水槽設備の掃除・メンテナンスなども自分たちでこなしています。
株式会社鳥羽水族館 飼育研究部 主任 大村 智氏
――その中で飼育管理アプリケーションを導入されましたが、それ以前の現場ではどのような課題があったのでしょうか。

大村氏 長年の悩みの種は紙の飼育ノートでした。このノートは飼育対象の個体ごとに用意し、チーム全員で共用するので、前の人が記録を書き終えるまで次の人は記入できません。ショーチームでは海獣だけで30個体以上を管理しているため「記入待ち」が常に発生していました。また、紙の記入スペースには限りがあるため、記録すべきことが多い日でも1行で報告を終わらせなければならないことも多くありました。

――業務負担の面ではいかがでしたか。

大村氏 紙のノートはファイリング形式のため、毎朝30個体強分の記録用紙を印刷・ファイリングする必要がありました。慌ただしい朝の時間帯に、こうした非コア業務に時間をとられるのは生産的とはいえず、チーム全員がストレスを感じていたと思います。

―― 紙の記録は保存性や再利用性にも問題があったかと思いますが。

大村氏 おっしゃるとおりです。症例報告のためにデータをまとめる際は、過去のファイルを1枚1枚手作業で遡る必要がありました。しかも、10年以上前の記録はインクが消えていたり、紙が黄ばんで読めなくなっていたりと、貴重な記録が実質的に使えない状態になっていました。

加えて、紙のノートは画像データとともに一元管理が行えない点も不便でした。動物たちの傷口や生殖孔の状態変化は、写真で記録するのが正確、かつ効率的ですが、画像データはチャットツールなどで共有するしかなく、飼育ノートと一元管理できていませんでした。本来まとめて管理すべき情報がバラバラに存在している状況でした。

▲カリフォルニアアシカの餌やりタイム

現場の声から始まったデジタル化の取り組み

――飼育管理アプリケーションの導入を検討し始めたきっかけを教えてください。

大村氏 チーム内から「飼育記録をデジタル化したい」という声が上がったことがきっかけです。水族館業界でもDXの取り組みが活発化し、飼育記録のデジタル化・効率化が進み始めていることは、我々も把握していました。そこから「自分たちにもできないか」というニーズが生まれました。

――パートナーとしてパナソニック デジタルを選んだ理由は何だったのでしょうか。

大村氏 第一の理由は、水族館業界での実績です。特に同社には、アステリア社のノーコード開発ツール「Platio」を使った飼育管理アプリケーションを他の水族館に導入した実績があり、その点を高く評価しました。我々の現場を知った上でアプリケーションに落とし込んでもらう必要がありますが、同社は水族館の業務をよく知っていたので安心して任せることができました。Platioはノーコードで開発可能なツールですが、自分たちだけで作れるかと言ったら、難しかったと思います。無料のアプリケーションでも単純なメモや記録はできると思いますが、現場に合ったかたちで継続的に運用していくための仕組みを作ってもらえることに価値を感じました。

――Platioベースのアプリケーションのどこに魅力を感じましたか。

大村氏 端末(タブレット)がオフライン状態になってもデータが記録でき、オンライン状態に戻ったときに自動でサーバーへ同期される点です。水族館はコンクリート造のためバックヤードではWi-Fiが届きにくく接続が途切れることがよくあります。ですので、オフライン状態でもデータが入力でき、オンラインに戻った際に自動で同期される機能は非常に魅力的であり、現場にとって不可欠なものといえました。このようにオフラインでも利用可能なことに加えて、「無料のアプリケーションでできないのか」という意見に対して「新しいことをやるには多少お金をかけてみてもいいのではないか」という取締役の声もあり、最終的にアプリケーションの導入に踏み切ることになりました。

――パナソニック デジタルへの信頼感はいかがでしたか。

大村氏 実績豊富な同社がアプリケーションの開発から導入、運用、そして活用まで伴走型で支援してくれる安心感は非常に大きかったです。水族館業務への理解があるので、こちらの意図を汲んでシステムへ落とし込んでもらえました。入力画面の作りだけでなく、誰が、いつ、どこのタイミングで入力するのかといった運用面も相談しました。導入で終わらず、データ活用の提案までしてもらえたので、ベテランが感覚で認識していたことなども可視化できました。
▲飼育管理アプリケーションの使用イメージ

使えるシステムにするための丁寧なヒアリングと継続改善

――アプリケーションの導入プロセスを教えてください。

大村氏 導入決定後、2025年5月にPoC(概念検証)を開始しました。試験運用中は紙のノートとアプリケーションを並行して使用し、問題がないことを確認のうえ、同年7月1日から本番運用へ移行しました。この時点で、ショーチームが管理する海獣7種・34個体の飼育記録をすべてデジタル化しました。

――PoC期間中のパナソニック デジタルのサポートはいかがでしたか。

大村氏 すばらしいと感じました。例えば、当初120項目あった入力項目をPlatioの上限である100項目に収める必要がありましたが、同社の担当SEの方は、我々への丁寧なヒアリングを重ねながら、飼育管理の実務に支障をきたさないかたちで項目を集約してくれました。それ以外にも、我々の数々の要望に対応していただき、結果として「環境管理」や「生物管理」に加えて「身体管理」の機能や「個体情報マスタ」も追加実装してもらっています。パナソニック デジタルのレスポンスは常にクイックで「この機能が欲しい」と伝えるとすぐに形にしてくれます。そうした丁寧で迅速な対応が現場スタッフの信頼につながったと感じています。

隙間時間で記録完了。現場の生産性が大幅向上

――飼育管理アプリケーションの導入効果についてお聞かせください。

大村氏 まず、毎朝の印刷・ファイリングの負担がほぼなくなりました。また、ショー担当の人間が開演30分前に放送室で待機する隙間時間にも記録入力が行えるようになり、業務効率が向上しています。

――アプリケーションの使い勝手はいかがでしょうか。

大村氏 入力項目の多くが選択式なので、不慣れな人でも直感的に扱えています。操作習得が容易なため、新人への記入方法の指導も不要になり、記入用紙の印刷やファイリングの手順を教える必要もなくなりました。結果として、より重要な飼育技術の伝達に時間を充てられるようになっています。また、写真を添付して一元管理できるようになり、言葉だけでは伝えきれない細かな変化も正確に申し送れるようになっています。

「紙では見えなかった相関」がデータで明らかに

――飼育管理アプリケーションの導入には、データの有効活用という狙いもあったかと思います。その現状についてお聞かせください。

大村氏 現在はパナソニック デジタルからの提案をもとに、BIツール「Tableau」を用いた飼育記録の分析・可視化に取り組んでいます。例えば、半年分の蓄積データを分析したところ「給餌量と体重・換毛の相関関係」など、紙のノートでは見えていなかった情報が可視化できました。アプリケーションの導入当初は、このように可視化できるとは想像してもいませんでした。初めてTableauの画面を見たときは、さまざまな数値が視覚的に確認でき、その変化と特異点が分かりやすく表現されていて非常に感心しました。こうしたデータ活用は、飼育管理のさらなる品質向上につながる効果であると感じていて、上層部からも相応の評価を得ています。今後もデータの分析・可視化と有効活用に力を注いでいきたいと考えます。アプリケーションを導入して終わりではなく、蓄積したデータをさらに活用するための提案を継続的にしてくれるのがパナソニック デジタルのよいところだと感じています。

――アプリケーションによる管理対象を、他の動物に押し広げる計画はありますか。

大村氏 まずは同じショーチームで担当しているペンギンとザリガニへの展開を考えています。また、管理職が確認・承認する「総給餌回覧」のワークフロー化も検討中です。さらに、他の飼育チームも興味を持ち始めているので、私が直接赴いて説明会を行おうと考えています。

――これから飼育管理のDX化へ取り組む施設へのアドバイスをいただけますか。

大村氏 重要なのは、自分たちにフィットしたデータ入力のフォーマットが作れるかどうかです。パナソニック デジタルはその部分をともに考えて、形にしてくれます。現場の課題・要望を丁寧に吸い上げながら紙からデジタルへの移行を伴走してくれるパートナーの存在が、我々のいまにつながっています。ツールの導入だけではなく、頼れるパートナーがいることこそが飼育業務のDXを成功させるカギだと思っています。

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当社担当からひとこと

小川 稀良莉
Platioは柔軟にアプリを構成できるため、現場の声を伺いながら改善を重ねやすい商材です。
今回も鳥羽水族館様にご協力いただきながら、日々の記録業務に無理なく取り入れられる形を一緒に検討してまいりました。導入後も、蓄積された飼育記録データの分析・可視化など、さらなる活用に向けた取り組みが進んでいます。今後も飼育管理業務のDX推進に向け、引き続きご支援させていただきます。
取材︓2026年5月20日 
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